おさきにどうぞ

覚え書き

ポメラが来た

 ポメラがうちに来た。

 ポメラの存在を知ったのは六年前である。当時知り合った方がポメラユーザーだったのである。彼女は通勤の行き帰りなどにカフェに寄ったりしてポメラで原稿を書いていると話してくれた。

 少し話が変わるのだが、当時私は「文章を書く」ということ、ひいては「創作をする」ということに憧れを拗らせた劣等感のようなものを抱いていた。オタクとして物語を吸収することは呼吸をするようなもので、そうすると「なんとかしてこの人たちの日常を知りたい」という気持ちにはなるのだが、そこから一歩先に進むことはできなかった。断片は浮かぶ。山場のようなところも思い浮かべることができる。しかしそこから、一文目を書き出すということがどうしてもできなかった。今思えば、物語を生み出すことへのハードルを自分で際限なく上げてしまっていたのだと思う。よって、ポメラは私には手の届かない存在だと思っていた。

 時は流れ、六年が経った。そしてなんと、私は今同人活動に勤しんでいる。二〇二〇年初頭からほぼ一年間書き続けた。おそらく二十万字を超えるファンフィクションを書いて書いて、書いた。一年で二十万字そこそこというのは、同人字書きの諸先輩方からすれば特段多くはない数字だと思うのだが、しかしこんな量のファンフィクションを書き続けたのは私の人生の中で初めての経験である。というかファンフィクションでない普通の文章としても初めてだと思う。四年前に書いた論文がおよそ十二万字だったので……。同人誌も再録本を二冊、書き下ろし本を一冊の計三冊作った。この書きぶりはほとんど熱に浮かされたようであり、くわえて恐ろしいことに今のところその熱が冷める様子はない。三月にはイベントにも参加予定である。もう申し込んじゃったのだ。サークル参加も受理されている。しばらくこの祭のような同人字書きライフ続行予定なのである。

 この二十万字超のファンフィクションを、私はすべてスマートフォンで執筆していた。本にする際の作業はPCで行っていたが、本文はスマートフォンのメモアプリに打ち込んでいたのである。Galaxyシリーズのメモアプリはそこそこ優秀で、打ち込んだ文章をWord形式に変換して送信することができる。ということで、別にそれでも支障はなかったのだが、なんだかここまでくるとだんだん別の形式を試したくなってくるのが人情というものである。

 それにスマートフォンというのは誘惑がめちゃくちゃ多い。私の集中力のなさときたら、二十数年付き合ってきた自分自身でも頭を抱えるほどである。一度インターネットに飛び込めばジャンプにジャンプを重ね、類語を検索していたはずがいつのまにか競馬のシステムについて調べていたり、必要な情報を検索しようとした瞬間なぜか指がツイッターを開いていたり、などというのは日常茶飯事であった。

 そこで思い出したのがポメラの存在だった。ポメラはとにかく文字入力特化の一芸デバイスである。ひたすらに文字を打って打って打つ、それだけの環境に書き手を放り込む、いぶし銀デバイスだ。

 これは……私にうってつけなのではないか? そろそろ新刊の用意しなきゃいけないし……三万字くらい書きたいし……。そう思った瞬間、私の指は勝手にポメラについての検索を開始していた。すかさずツイッターにも「ポメラほしくなってきた」などと呟く。仕事が終わったのち家電量販店に赴きサイズ感や打鍵の感触を確かめる。店から出た瞬間、注文ボタンを押していた。

 そして今、私の目の前にポメラはいる。この文章を、ポメラにぽつぽつと打ち込んでいる。

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 マットな黒いボディ、ニンテンドーSwitchよりはデカく、ノートパソコンよりは小さいという微妙な大きさだが持ち運びには支障ない。画面も大きく見やすい。ATOKの変換機能も言うことなしである。決して安くはない買い物だが、快適に使うことができそうだ。

 六年前には自分が「あの」ポメラを買おうなどとは考えてもいなかった。というか一年前にも考えていなかった。どうなるかわからんもんである。この一年はほんとうにいろんなことがあり、不安に満ち満ちていた。そんな中で、「書いてみたい」と思えるものに出会えたこと、そして拙くはあるものの「書いてみたい」ものを「書けた」ことはなによりも得がたい経験であったと思う。

 次に発行予定の新刊はこのポメラで書こうと思っている。新ガジェットの力を借り、もりもり書いていきたい所存である。とりあえずポメラにはポメ之進と名付けた。これからよろしく、ポメ之進。一緒に頑張ろう。

ここからはなんとなくの覚書。
・DM200にした
ポメラの現行最新機種としてはDM30とDM200がある。
違いをさくっとまとめると、

DM30……折り畳み式キーボード、乾電池、電子ペーパー使用液晶
DM200……ストレートタイプキーボード、リチウム電池Wi-FiBluetooth対応

この辺もあってかお値段にかなり違いがある。DM200の方がお高い。ただDM200にあってDM30にないWi-Fi機能にちょっと惹かれたので、DM200を選んだ。まだ使いこなせてないんですけど。
あとDM30になくてDM200にあるものとして「これは!!」と思ったのは、類語辞典である。DM200には角川類語新辞典が搭載されている。文章書く時使う辞書ぶっちぎり一位、類語辞典。これがあるのは良い。
さらに、複数記事を読んで比べた際にATOKによる変換はDM200の方が優れていると書いてあるものが多かったのも決め手であった。やっぱそこは大事だよね。この文章書く中で変換で「テメエ!!!」となった瞬間はなかった。

・ちょっと困っていること
ケース。かわいいのが〜〜!見当たらねえ〜〜!!
もうこれは進退窮まったら自作するしかないのか?と思っている。
DM200は発売から二年経っていることもあり、発売当初に「これがケースとして代用できる」と書かれている商品(主に100均とかスリコとか……)は終売していたり店頭になかったりする。今日一日街をうろうろして「うん、ない!!」となった。大の字。
本文にも書いた通りニンテンドーSwitchよりはデカい。Switchのケースで代用可能、と書いてあるブログも散見したが、多分モノによると思う……。手持ちのSwitchのケースには全く入らなかった。